不倫の慰謝料請求には2つの期限がある
冒頭にあった「過去の話だし、もう時効だよ!」の正確な意味は「不倫は過去の話だから、あなたの慰謝料請求の権利は時効が成立しています!」というもの。
では、具体的に慰謝料請求の時効はどのような規定になっているのでしょうか?
(1)不倫相手が判明してから3年
話をわかりやすくするため、実例を挙げて解説します。
・夫(不倫した側)35歳 会社員(不倫をしていた当時の年齢は32歳)
・妻(不倫された側)32歳 専業主婦(不倫をされていた当時の年齢は29歳)
・不倫相手:35歳 夫と同期入社の独身女性(不倫をしていた当時の年齢は32歳)
・結婚5年目。子供有り。
・結婚2年目の妊娠〜出産期間中に、夫が元恋人と不倫(不貞行為は3回程)その後、何事もなく3年経過。
上記の夫妻が、第一子の出産に合わせて、一時的に別居をする事になりました。
いわゆる里帰り出産と呼ばれるもので、産後の肥立ちが良くなるまで、夫はしばらく独り暮らしをする事になります。
そして、よくあるパターンの会社の同僚と勢いで不倫関係に…。
しかし、女性側も夫が既婚者であることは知っており、あくまでも肉体関係だけの割り切った大人の遊び…という認識でした。
そのため、関係が泥沼化する事もなく、3ヶ月を過ぎる頃には元の関係に戻り何事も無かったかのようになりました。
それ以降、不倫相手とプライベートで積極的に連絡を取り合うことも無く、夫自身も昔のこと…と、すっかり忘れていたある日の事。
自宅に遊びに来ていた夫の友人が、酔った拍子に「お前(夫)が前に社内不倫していたの、バレていないとでも思ってるの〜?」と軽口を…。
この言葉に敏感に反応した妻が「その話、詳しく聞かせて頂けませんか?」と二人に詰め寄り、3年前の悪事が発覚。
その際に「過去の話だし、3年も経っているし、相手とは連絡も取っていないし。時効!」と夫は土下座をしながらも、発する言葉はどこか開き直った態度に感じられました。
この時、不貞行為の事実から3年は経過していますが、夫の主張内容は認められず、時効は成立しません。
民法724条では、被害者または法定代理人が損害および加害者を【知った時から三年間】と明記されています。
つまり、民法724条の行使要件(権利がスタートする日)は、
○今日=不倫の事実と、不倫相手の女性を知った日。
×3年前=最後の不貞行為があった日
となり、夫の主張する時効は成立しません。
この時に、妻が注意しなければいけない点が「不倫の事実を知った今日から3年経つと、慰謝料請求をする権利が消失する」という点。
相手女性と連絡を取るのに時間がかかったり、話し合いがエスカレートしてしまい法的手続きをうっかり忘れて3年経ってしまうと…。
夫の主張する時効が成立してしまいます。
(2)20年の除斥(じょせき)期間
一般的に、これが「不倫の時効」と言われる法的根拠と言えるでしょう。
民法724条では「不倫相手を知ってから三年」と定めると同時に、不貞行為の時から【二十年を経過した時も同様とする】と定めています。
先述の夫婦に当てはめて考えると、夫の悪事がバレないまま…
・夫:52歳
・妻:49歳
まで、隠し通す事が出来ていれば、夫の友人から軽口が漏れても、妻は不倫に関する慰謝料請求をする事は認められません。
この時、同じように「過去の話だし、20年も経っているし、相手とは連絡も取っていないし。時効!」と言えば、夫の主張は認められます。
この時に、妻が注意しなければいけない点が「不倫の事実を知った今日から3年経つと、慰謝料請求をする権利が消失する」という点と混同しない事。
例えば、19年前の不倫が発覚した場合、時効成立は「不倫を知った日から3年」(最後の不貞行為から22年目)になります。
また、催告(さいこく)という手続きを取れば、最大6ヶ月間、時効を止める事も可能です。
20年で時効成立…と早合点して覚えていると、損をする事があるので気をつけましょう。
また、これは妻側の「慰謝料請求の権利」が時効成立によって認められない…というだけの話に止まります。
不倫をした罪が時効によって消えたわけではない点も忘れてはいけません。