出会い
ミサは32歳。華奢なスタイルに大きな目が印象的なかわいらしい女性です。
都心の中堅企業で専門職として働き、仕事もプライベートも充実、という雰囲気があふれ出ています。
そんな彼女がかつて経験した、仮面夫婦を自称する男との不倫について出会いから別れまでを語ってくれました。
ミサが渡辺と出会ったのは、会社近くで開催されたバールと呼ばれるイベントで、近隣の何軒かのレストランや居酒屋が共同で開催し、チケット制で美味しいお酒と飲み物を楽しむことができるという趣向のもの。
同僚2人に誘われ3人で参加し2軒目に行った和食店で隣り合わせたのが渡辺たちのグループでした。
彼らは、ここから三駅ほど離れた場所にある大手企業に勤務しているそうで、営業マンらしく快活で、滞りのない会話を繰り広げミサたちを楽しませてくれました。
イベントに一緒にいったミサの同僚のうち一人は既婚。もう一人は彼氏アリ。
その頃ミサは、マッチングアプリで婚活中でしたがうまくいかず、もやもやとした日を送っていた時でした。
この時点で渡辺たちが既婚者であることにミサは気づいていたのか。気づいていたのならそのことをどう考えていたのでしょうか。
「彼らが既婚者であるのはすぐにわかりました。深くお付き合いするつもりはまるで無くて、軽い気持ちで2軒目もお付き合いしました。」
渡辺たちは既婚者特有の余裕で、ミサたちを楽しませ、次の店ではスマートにご馳走してくれました。
「またこうしてみんなで飲もうよ。何かの縁だし。」
そう言ってラインIDを交換。そこまでは、予想通りの展開でした。
翌朝、渡辺から昨日のお礼と今度は二人で会わないかというお誘いメッセージが届きました。
誘い慣れているのかな、と思いつつ見た目が良く会話の楽しい渡辺の誘いに乗り翌週に二人で会うことになりました。
家庭に関心がないふりをする男との始まり
連れて行かれたのは、隠れ家的なお洒落なフレンチレストランでした。
食事だけとはいえ、既婚者と二人きりで会うことにミサは抵抗がなかったのでしょうか。
「抵抗がないと言えば嘘になります。でも、婚活で不作続きの頃でちょっと破れかぶれというか、一度食事をするだけだし楽しければ良いじゃんという感じでした。」
渡辺は自分が36歳で、28歳で結婚し5歳の娘がいることなどをさらりと最初に話しました。その上で後は質問をミサに投げかけ、ひたすら聞き役に徹したと言います。
「婚活で会う男性は、聞いて聞いてタイプの人が多かった。その点、彼はじっと私を見つめながら楽しそうにひたすら私の話しを聞こうとしてくれました。その姿にこの人いいな、って思ってしまって。」
一通りの話しが終わった後、渡辺は急に真顔になり、お付き合いしてくれないかと切り出しました。既婚者であることを問うと、「うちは、もう長いこと仮面夫婦なんだ。」と。
妻である相手とは元同僚だったそう。渡辺の会社は古い体質で結婚してこそ一人前という考えが未だにあるのだとか。
30歳を前に縁のあった彼女とお付き合いをし、わずか交際半年で結婚を決めた。特に共通の趣味などがあったわけではなく、可もなく不可もなくというのが結婚の決め手になったと言います。新婚当初は会社の話題など会話もそれなりにあったが、結婚と同時に退職した相手とは段々にその会話も続かなくなり。
今では会話は殆どなく、家庭内でもすれ違い状態。その現状を苦痛とも思わず当たり前になっていたと言います。
「ミサちゃんに出会って、いっぱい話をしてさ。会話が続くってこんなに楽しいんだって思い出したよ。」
ミサの目をじっとみつめながら真剣に言う渡辺。
でもやはり既婚者は既婚者。婚活をしているミサが付き合う相手ではないのでは?
「婚活サイトで出会うコミュ力の低い男性とのやり取りに疲れてたんです。そんな好きになれそうにない独身の男性と交際するより、一緒にいて楽しい、好きになれそうな人の方が良いかもって思ってしまいました。しかも仮面夫婦だって言葉も信じてしまって。」
そうして、その日を境に二人の関係が始まりました。