妻が相手しても浮気してしまう男たち
あの日を境に、渡辺からの連絡はないままでした。
そんな時、かつて渡辺と知り合った時に同席していた同僚が結婚しSNSに新婚旅行の様子をアップしたので見て欲しいと。
どうでも良いと思いつつそのページを開いてみていると、偶然そこに渡辺の情報がリンクされていました。
「そのSNSでは、何らかの繋がりがある人が「友達かも」みたいな表示で出てくるんです。そこに同僚と少しだけ繋がりがあった彼のページが表示されたみたいで。」
恐る恐るそのページを開くと、渡辺が自宅らしき場所で犬と戯れている姿がアップされていました。
彼自身の投稿はなく、彼と繋がりのある相手の中に妻らしき人をみつけそのページを開きました。
そこには、毎日の夫のお弁当、家族で行った遊園地の写真。それは日常という喜びに満ちた夫婦の様子が散らばっていました。
愛する人のSNS、パンドラの箱を開けてしまったミサ。それを見た時にはどんな心境になったのでしょうか。
「無心にページを繰り進めながら、自分の見てきた彼がなんだったのか。愛ってなんなのかって。ただ知らない夫婦の生活を覗き見ていました。」
その後、渡辺と出会ったときに一緒だった同僚の話しから、妻の実家の援助で彼の自宅が建てられていることを知りました。
安くはないデート代を毎回負担してくれることを男気と思っていましたが、それは妻の実家の援助ゆえの「余裕」であったことを、ここでまた思い知らされたのです。
1か月後、渡辺から久々にラインが届き会うことに。
もうこのままフェードアウトという方法もあったと思いますがなぜ会ってみたのでしょうか。
「彼のこと、彼の家庭のことはわかった。でも、私と彼との間にあったのはやはり愛だったと信じたかった。だからもう一度会って、そのことを確認したかった。」
しかし、彼の口からは言い訳と関係を続けたいという懇願だけ。ミサの気持ちへの配慮は全く感じられなかったと言います。
「それを聞いているうちに、すっと気持ちが冷めてしまった。嘘つき男の顔をぼんやりと眺めながら、こんな男を愛してると思ってたなんて、情けなくて悲しくて。」
おかげですっきり吹っ切れたとミサは静かに微笑みました。
こんな男とは結婚したくない、浮気をしてきた女たちの本音。
聡明で美しいそんなミサがなぜ既婚者の手にあっさりと落ちてしまったのでしょうか。
渡辺と出会ったころ、ミサは婚活に疲れ判断力が鈍っていたと言います。婚活サイトで出会う男たちは、焦りが露見しロマンティックさのかけらもないタイプか、若しくは恋愛に縁がないまま年齢を重ね、女性の扱いどころか会話の術すら知らぬタイプか。そんな男性とのやり取りに疲れ、もう恋はできないかも、と思っていたころに出会ったのが渡辺だったと言います。
ミサは仮面夫婦、セックスレスの夫婦であるという渡辺の言葉をなぜ信用したのでしょう。
「私は結局、夫婦というものがなんであるかをわかっていなかったと思います。」
仮面夫婦とは愛情はないけれどなんらかの理由があり夫婦である状態、結婚している状態を続けていることを指すようです。
セックスレス、会話がない状態イコール夫婦関係が崩壊していると簡単に信じこんでしまったミサ。
しかしながら、理由が何であれ離婚せず夫婦であるということはやはり深い意味があるのです。
夫婦関係は、趣味が合うことやセックスだけで維持されているものではありません。生活の様々な事象が重なり共に生きている関係であればそれはやっぱり夫婦なのです。
夫婦関係の要素の一つでしかないセックスレスだけを強調し、夫婦関係が壊れているように言う男性は、人間関係を包括して築くことが難しい身勝手で未熟な人間である可能性が高いといえるのではないかとミサはしみじみ語ります。
自分の未熟さを棚に上げ、性的な欲望だけをミサで満たそうとした渡辺。
そしてそんな渡辺の行動を愛情と勘違いした自分も未熟であったと。
「おはよう、おやすみって毎日連絡があり、デート費用を負担してくれる。それを愛だと思ってた。恋愛ごっこを心のどこかで望んでいるのを彼は見抜き、彼もまたその恋愛ごっこを楽しんでいたんでしょう。」
仮面夫婦を語り仕掛けられた不倫関係はこれまた、仮面恋愛にすぎないのかもしれません。
仮面夫婦と自ら語り不倫に持ち込む男性を今のミサはどのように見るのでしょうか。
「現状がどうであるかはともかく、自分が選び築いてきた結婚関係、夫婦関係を「仮面」と平気で言うような男性はダメですね。あんな男と結婚しなくてよかった。今は本当にそう思っています。」
渡辺と出会い過ごした1年は戻りません。しかし、この恋愛で学んだことは大きかったとミサは言います。
仮面ではない本当の恋、本当の夫婦は楽しいだけではない、お互いの努力と理解が必要。もう引っ掛かりません。
そう言ってミサは力強く微笑みました。